悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

21時まわっちまったし、
アイツ、寝ちまったかな……。



そんなことを考えながら、コールを鳴らし続けると
ようやく電話が繋がるのを感じた。



「あぁ、起きてたか」

「起きてる。

 21時で消灯時間は過ぎてるけど、
 早すぎるんだよ」




おいおいっ。

まだお前は小学生のガキだろ。
俺からしてみりゃ、20時でもいいくらいだ。



「まぁ、怒るなって」

「別に怒ってなんかない。
 飛翔の電話が遅かっただけだ。
 規則を破ったのは、お前の責任だ」


あぁ、今日も突っかかってきやがるな。


「そうかよ。
 こっちの仕事があっからな。

 明日、いつもの時間に海神まで迎えに行く」

「わかった。
 遅れたら承知しないぞ」

「あぁ、気をつけるさ。
 じゃあな、風邪ひかずに過ごせよ」



そう言った途端、ロッカールームに由貴が姿を見せて、
照れ隠しのようにそのまま、電話を切った。




「ふふっ、飛翔。
 少しずつ神威君と仲良くなれてるみたいだね」



そう言いながら白衣をロッカールームに片付けて、
ジャケットを羽織ると、鞄を掴み取る。



何となく由貴が落ち込んでいる時のサイン。




「由貴、今日時雨はいるのか?」

「どうだろう。
 時雨も最近は、帰ってこない日が多いから」

「なら、今日は俺んちに来るかっ。
 礼をしたかったしな」



そう言ってアイツを自宅へと招く。


最上階ではなく、早城の家に連れ込んで
母さんの晩御飯を食べた後、もうひと勉強して眠りに入る。


次の朝、由貴を鷹宮の駐車場まで送り届けて
医局に顔だけ出すと、受持ち患者のデーターだけ確認して
自分のノートPCの資料を増やしておく。

そのまま擦れ違うスタッフたちに会釈をして、
海神へと車を走らせた。



13時半。



海神のセキュリティーシステムを突破して、
アイツが生活している、ポーン寮の前に車を駐車すると
寮の待合室へと姿を見せる。



アイツは手荷物の鞄を持って、
俺の方を真っ直ぐに見据えていた。


「神威、行くぞ」


一言声をかけて、アイツが引きずりそうにしてた
鞄を持つと、そのまま車へと向かった。


すでに何度かアイツを乗せて走らせている愛車の前まで来ると、
助手席のドアを開けて、アイツは車のナビシートに座って
シートベルトをつけた。


手荷物を車内に片付けて運転席に座り込んだ俺は、
エンジンを心地よく振動させて車を走らせた。


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