悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「華月、賑やかだな」

「えぇ、そうね。
 でもこの賑やかなひと時が、私にはとても嬉しいのよ。
 柊さまからは、今も結界が壊れ続けていることを連絡頂きました」

「華月、今日は聞きたいことがあって此処に来た。

 俺が雷龍を降臨させたのは、兄貴が残したこの護符があったからだ。
 俺自身が龍に選ばれたわけではない。

 だから俺にはわからないんだ。
 龍をおろすと言うことが、どういう意味を持ち、どのような影響を肉体にきたすのか。
 
 それに柊が言っていた。
 神威の力は、兄たちが封じていると……。

 それはどう言う意味をさしているのか、俺にもわかりやすいように教えてくれ」


そう……目の前に起きる、非日常の出来事。



「ご当主の力を封じているのは、先代当主ではなく、私の姉。
 神威の母にあたる、心凪【みなぎ】姉様です。

 飛翔にはずっと隠していましたが、私たち兄弟には生まれ持つ不思議な力があります。
 
 その力を持って弟の櫻翼【おうすけ】は、夕妃の能力をその命を持って封じました。
 それと同じように、心凪【みなぎ】姉様もまた、生まれたばかりの神威が持つ能力の大きさに
 我が子を不憫に思ったのか、その力を全て封じるために海へと還る未来を選び取りました。

 今、私がご当主と夕妃の傍に居るのは、その力が弱まった時、姉様と櫻翼【おうすけ】の意をくんで
 再び封じることも、逆に見守ることも出来るから。

 ですが……ご当主の力も、夕妃の力も目覚めることがなければいいと私は願わずにはいられないのですよ」



時折、辛そうな表情を浮かべながらも昔話を語る華月。



どれほどにバカげていると思っても、当人たちにとってはそれしかやり方がなかったのかもしれないと思う心と
それでもそんな未来しか選べなかったその弱さを嫌悪する気持ち。


相反する気持ちが俺の中で渦巻き続ける。

 



その後、俺は華月について徳力家に伝わる古文書を読み漁る。





その古文書に記された文字は、俺が知るような文字では決してない。
だが頁をめくるたびに、映像として内容が脳内に送り続けられて、頭の奥が痺れたような感覚に捕らわれる。




古文書を全て頁を繰り終えた頃には、
何故か精神的に酷く体が疲れているのを感じた。


例えて言うならば貧血に近い状態。



術を浸かった後疲労は、このような感じのものなのだろうか?
そんなことを考えながら、分厚い古文書をゆっくりと閉じた。




「飛翔、疲れたでしょう?」


そう言って華月が手渡してくれた、温かいお手拭きタオルの温もりが優しい。
滞留していた血液が再び動き出しているような、そんな錯覚すら感じる。




「華月、お前は知っていたのか?」

「えぇ。私が、先代当主のさくらとして働いていた折、
 ご当主より全てを伝え聞きました。

 私は一族の為、ご当主の為、そして亡き弟の忘れ形見を守るため、
 今も役割を受け止めています」

「闇寿さまと華暁は?」

「主人は全てを知ったうえで、先代ご当主の意を受け継いで今も、その限りあるお役目についています。
 華暁は現・さくらです。

 私と同じ力を、あの子も持ってるでしょう。
 来るべき時、あの子が自分の意志でその力を使いたいと思った時、迷うことなく使えるように
 これからも「さくら」の役割と共に教育してまいります」

「櫻翼の子は巻き込みたくなくとも、我が子は巻き込んでいいのか?」

「我が子だから巻き込むのではありません。
あの子が望み、あの子が自らの意志で、さくらとなった。

 だからこそ、私は母として、私が培ってきた全てをあの子に伝える必要があるのです。

 飛翔、私の傍で……私が抱え続ける役割をほんの少しでも構いせん。
 手伝ってはいただけませんか?」


静かに告げられた言葉。

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