悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「失礼します。徳力神威の保護者です。遅くなりました」


ドアを開けて中に入ると、すでに西園寺さんは病院に戻ったのか
養護教員らしきスタッフが、デスクワークをしていた。


「どうぞ、一番の奥のベッドで徳力君は点滴の処置をされながら眠っています。
 先ほど西園寺先生は病院から呼び出しが入って戻られました。

 養護教員兼看護師の資格を持っています、稲田【いなだ】と申します」

「徳力神威の後見人を務めます、徳力華月と申します。
 こちらは」

「神威の叔父、徳力飛翔。
 この度は、神威がお世話になりました。
 目覚め次第、今週は自宅に連れ帰っても宜しいでしょうか?」

「そちらは、徳力君と話し合ってお決めいただければと思います」

「神威の元にはいけますか?」

「どうぞ、こちらになります」


そのまま稲田さんに案内されて連れられた奥のベッドでは、
点滴を受けながら、眠り続ける神威の姿を視界に入れる。

点滴に記された薬品名から、栄養剤と安定剤が使用されていることを知る。



点滴の薬品が神威の体内に吸い込まれていくのをベッドサイドで見ながら、
西園寺さんに言われた言葉を思いだす。


裕先輩の力が必要になるかもしれない現状。

だけど……その時が万が一来てしまうなら、
裕先輩よりも、その道を目指す二人の親友に託したいと望む俺自身。



「ご当主」


ふいに華月が神威を呼ぶ声が聞こえて、
俺は神威の方に視線を向ける。

反射的に体を起こそうとするアイツの前に腕を一本出して、
それ以上起き上がらせることをやめさせる。


「起きるな。じっとしてろ」


神威は諦めたようにベッドに沈むと、その隙に傍にあって消毒綿を手に取って
アイツの腕に刺さっていた点滴の針を抜き取る。


「神威、暫く自分で押さえてろ」


そのまま、空っぽになった点滴のバックと使用済みの針を
稲田さんの元に持っていく。


「世話になった」


それをそのまま預けると、再び神威の方へと向かう。



「ご当主、何をお考えでしょうか?」


神威が窓の外に視線を向けるのを感じて華月が問う。


「華月、少し席を外してくれ。
 後は俺がする」


そう言うと華月は静かに立ち上がって、ベッドの傍から離れていった。


「神威、今週は海神を休まないか?
 今日は木曜日だ。木・金と二日間休んで週末。

 今は体を優先にするべきだろ。
 校医から連絡があった。

 不眠が続いているみたいだと……」

「ボクも気になることが多すぎて、授業には集中出来ないだろうな。
 わかった。帰るよ、マンションへ。

 だけどマンションに戻る前に、行きたい場所がある」

「行きたい場所?」

「うん。夢に見るんだ。何度も何度も。その場所に咲く、満開の桜は凄く美しくて
 そこには金色の角を宿した鬼が居るんだ」

「鬼?」

「うん。ボクは今、毎日その鬼の夢を見てる」

「わかった。
 華月に頼んで、万葉や柊さんに情報を貰おう」


俺がそう言うと、神威は珍しく素直に頷いた。


素直に頷くほど、体は疲れているのだろうか……、
それとも、俺を通して亡き父を思っているのだろうか?
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