悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


華月・柊の向かい側に、万葉と俺が座ると
神威から聞いた夢の話を伝える。


俺の話を聞いた後、柊はゆっくりと口を開いた。



「宝さまが見られた夢は紛れもない現実。

 桜の木が美しい神社。
 その神社は、宝さまが通学される、海神校のすぐ傍にあります。

 神社の名は、桜塚神社。
 地元の人間には、塚本神社とも呼ばれています。

 桜塚神社は、桜鬼【おうき】を祀る神社。
 そして、その地は近年、気が乱れ、場に歪みが生じています。

 近日中にも私自身も向かわねばと、危惧しておりました」



柊が気にかけるほどの場所を、アイツは夢で知ったと言うのか?

だがアイツにはその力を、アイツの母親である心凪【みなぎ】さんが
その命を持って封じたといってなかったか?



「だが神威の力は封じられている」

「えぇ。お姉さまが、ご当主の力は封じました。
 そしてその封印が敗れたとは、私も思えません。

 ご当主のお力が暴走しているとも……。
 柊佳殿、どういうことなのでしょうか?」

「飛翔殿と華月さまが心配なさるようなことにはなってはいません。
 ただ……生まれ持つ、宝さまの力が、宝さまの意に応えて
 その片鱗を見せているのかもしれない。

 ご当主は、自らの意志で扉を開きたいと望んでいるのではないでしょうか?
 そのようにも私には思えるのです」



アイツが……生まれ持つその力を欲している?



アイツの母親が、どれほどの愛情を持ってその力を封印したとはいえ
そのを上回る望みには、どれほどに強固な封印も解かれてしまう。



そう言うことなのだろうか?



*

助けてってボクにずっとずっと、伝えてくるんだ。
だけどボクは、どうしたらあの鬼が助けられるかわからない。

ボクはどうしたらあの鬼を……救える? 

*


先ほど、神威がずっと必死に訴えたその思いを辿る。





「貴重な話を有難うございます。
 明日も早いので、神威の様子を見て今日は休みます」


立ち上がってお辞儀をすると、そのまま神威の部屋へと向かう。


そのまま空っぽになるのを見届けて点滴を外すと、
シャワーを浴びて、自室のベッドへと倒れ込む。




アイツはアイツで、今もずっと暗闇の中に居続けているのかも知れない。
俺自身が、ずっとそうだったように……。



アイツの気持ち、兄の想い、義姉の想い……俺たちの想い。


何が正しくて、何が間違いなのか
そんなのわかるはずもないし、答えなんて最初からない。


ただ……俺が思うのはただ一つ。


アイツを当主としての飾りではなく、生神でもなく、
ただ一人の徳力神威として見つめ、アイツの好きにさせてやること。



徳力の何縛られ続ける生活を強いられるアイツを、
ほんの一時でも、何かから解放してやれることがあるなら
俺はそれを守ってやりたいとすら思う。


俺自身が逃げ出した時間と、真っ向から向き合い続けるアイツを
守り続ける為。




これからアイツの身に何が起きようとしているのか、
想像すらも出来ないなか、ただ不安だけが押し寄せる。


だからこそ、俺は……もっと勉強して医者として成長しておきたい。
アイツの身に、どんな異変が起きようとも、対処できるように。


その為に……今は俺にとっても重要な時間なのだから。



俺は今、俺自身が成すべきことを確実にやり遂げる。


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