悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

12.桜塚神社に住む少女 -飛翔-


翌朝、早々に目覚めて起きてきた神威は、
俺が休みなのをいいことに、
もう一度桜塚神社に行くことを望んだ。


朝食の後、俺はアイツを乗せて再び
桜塚神社まで車を走らせた。



神社では、咲久と名乗った存在が
境内の掃き掃除をしていた。


玉砂利を踏みしめながら、
神威は神社の方へと歩いていく。

その背後をついていく俺。




「おはようございます。
 徳力のご当主。再びお運び頂き有難うございます」


掃除の手をとめて、深々お辞儀をする。



「構わない。

 譲原さんはいつものようにお仕事を続けてください。
 少しお邪魔します」


神威は改まった口調で、その人に返答すると
真っ直ぐに、御神木の桜の木の方へと歩いていった。



「まだ居ない」


小さく呟く神威。


「居ない?誰かいるのか?此処に?」

「この桜の木が、この地を守る鬼の大好きな場所。

 夢の中のアイツは、いつもこの枝に座って
 ずっと世界を見つめてた。

 せっかくボクが来てやったのに、
 アイツ、何処に居るんだよ」


わけのわからないことを口走りながら、
神威は不機嫌そうに呟く。


そのまま桜の木の前で、深呼吸をはじめた。


呼吸をかえようとしてるのか?


何となくそんな気がして、少し神威から距離をとって
見守っていく。




神威は何度目かの深呼吸の後、ゆっくりと桜の木に手を翳した。


ただ翳しただけの手が、
一瞬、桜の木の奥へと引き込まれたようにも映る。



慌てる俺と裏腹に、アイツは至って冷静だった。



目を閉じて、じーっと桜の木に手を翳し続ける神威。

五分くらい過ぎた頃、
神威はゆっくりと目を閉じて桜の木から離れた。

< 173 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop