悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
そう言うとゆっくりと病室から這い出して、一番近くの自販機の前のソファーに座る。

ホットのブラック珈琲を注文しようとした俺は、
ミルク入りと微糖を先に選択されてしまう。


「今日の飛翔はこちらで。
 明日のERは私。明後日は史也が交代してくれます。

 後、神威君が私を頼ってくれたこと、凄く嬉しかったです。
 面識が乏しい私に連絡をしてくるのは、とても勇気が必要な行動だったと思います。

 そこは飛翔も、ちゃんと評価してあげてくださいよ。
 あんな小さい子に心配かけて、どうするんですか?

 貴方がちゃんと守ってあげるんでしょ。
 亡くなったお兄さんの代わりに」



由貴の言葉を聞きながら、口元に運び続けた缶の中身はすでに飲み干してしまっていた。



「あぁ、俺が守る」



そうだ……兄貴の代わりに、アイツは俺が守る。



そうは思っていたが……アイツを取り巻く環境は、
俺の想像以上に特殊なものになっている現実。




「なぁ、由貴。
 一人少女が眠り続けてる。

 その眠り続けている少女と全く同じ容姿をした少女が現れて、
 物理的に何かを起こしてくる」

「物理的にとはどういう事ですか?」

「俺も神威も物凄い力で首を絞められた」

「首を?」

「あぁ。
 最初、首を絞められていたのは神威だった。

 アイツを助けたくて、兄貴の護符を持った途端
 稲光みたいなものが、真っ直ぐに俺の中に轟いた。

 その瞬間、神威から首を絞めるターゲットは俺に変ったらしく、
 外からの強い衝撃に意識を失いそうになりながら、必死に抵抗を続けてた。

 その存在は、俺たちの首を絞めているにもかかわらず
 俺たちが触れようとしても、触ることすら出来ない。

 
 そんな現実、有り得ないだろう。


 意識を失う間際、兄貴の声が聞こえた気がしてな。
 兄貴と共に『宵玻招来』って声に出してた。


 多分……神威を守ることすら出来ない俺を、
 兄貴があっちから守りに来てくれたのかも知れないな。

『世話焼かせやがって』って文句でも言いながら」



記憶の中の兄貴を辿りながら、由貴に告げる。




「そうだとしたら、飛翔のお兄さんは二人のことが心配で
 溜まらなくなって、力を貸してくれたのかもしれませんね。

 お兄さんが守ってくれたから、飛翔も神威君も怪我一つしなかった。
 それは喜ばしいことだと思います。

 ただその……飛翔と神威君の首を絞めてきた存在が気になりますね。
 また襲ってこないといいのですが……」




由貴はそう言いながら再び、不安そうな視線を見せた。


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