悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

「桜瑛……?」


「もう、桜瑛じゃないでしょ。
 神威のバカっ!!

 何、あの電話?

 サヨナラって、桜瑛、賀茂蔵【かもくら】に言いつけて
 あの後、すぐに神威の村までお出かけしたんだから。

 神威のことちゃんと探して、ここの部屋に居たおじさんに
 ちゃんと伝えて見つけて貰ったんだよ。

 神威、桜瑛が居なかったら今頃、もういないんだから」



言いたい放題、思うままに吐き出すように言い続ける桜瑛の言葉を
聞きながしながら、何となくボク自身の身に起きた出来事を思い返す。





そうだ……。



もやもやになっていた、記憶が少しずつ繋がってくる。








安倍村が大雪の日がに起きて、寮に迎えてに来た村の者たちの車で
ボクは郷へと帰った。


だけど総本家には戻らずに、何処か別の場所に連れられた。


そこで白装束に着替えさせられて、
輿に乗せられて連れられた場所は、村のはずれの海岸。




そしてボクは、舟らしきものに乗せ換えられて、
海の方へと流された。

簡素な作りの舟は、海に流れ始めるとすぐに崩れ始めて
海へ……。




そうだ……ボクは、昔からの一族の意志として
民を助けるために、命を天に還す必要があった……。




……だけどボクはこうして此処で生きてる……。






当主としての役目を果たすことが出来なかった。



ボクが生きてると言うことは、
儀式は……失敗したと言うことか。




心の中、責め続けるのは今も生きているボク自身の罪悪感。




あんなにも『死』を覚悟して、桜瑛に最期のメールまで送って
時を迎えていたというのに……。



ボクの目の前には、涙で目を真っ赤に腫らせた桜瑛が
じーっとボクを見つめ続けている。




今も、その涙でボクの頬を濡らしながら。




「ご当主、秋月の火綾の巫女。
 飛翔が主治医を連れて参りました。

 少しお時間を頂けますか?」



そっと、華月が声をかけて桜瑛の傍に近寄ると
今も泣き続ける桜瑛を抱きとめるように優しく声をかけながら
ベッドの上から移動させていく。



それと入れ替わりに姿を見せるのは、
万葉と白衣の男。
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