悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「……私は……」

「まぁ、お前には大切な仕事をして貰う」



デスクに持たれるように体を預けて、
マグカップを手に、何度か飲みながら『大切な仕事』を強調して、
意味ありげに言葉を発する嵩継さん。


その言葉を待つように、嵩継さんの視線を捕えると
その人は告げた。



「氷室。重要な任務だ。早城、見てこい」




ここ暫く、行きたくても行けなくてモヤモヤしていた心を押すように
大義名分を得て、私は慌てて椅子から立ち上がると
お辞儀をして医局を飛び出した。


着替えを済ませて、ロッカーに白衣を片付けると
荷物を持って駐車場に止めてある愛車・ミニへと向かう。

愛車を走らせて向かう先は、
飛翔が家族と生活しているマンション。


愛車をマンション近くのコインパーキングにおいて
歩いてマンションのエントランスへと向かう。



マンションの出入り口前。


固く閉ざされたガラス扉の前で、
立ち尽くす私に、中から警備員が顔を出す。




「当マンションに何かご用でしょうか?」

「飛翔に……早城飛翔の元に行きたいのです」


そう……飛翔の元に。



「飛翔さまの?」


そう問い直す警備員の口調は少し厳しい。


「免許証でよければ身分証明も提示できます。
 飛翔に連絡して貰っても構いません。

 私は氷室由貴と言います。
 今は鷹宮総合病院で、飛翔と研修医として働いている
 中学時代からの友人です」


少しでもこの門を突破したくて口早に告げる。



「どうかしましたか?」



ふいに奥から姿を見せる男性。



「万葉さま、こちらの方が飛翔さまをお尋ねに……」


警備員は、礼儀正しく声の主に告げる。



「徳力の方ですね。
 ご無沙汰しています。氷室です」


っとその声の主に、お辞儀をしながら声をかけると
すぐにその人は私の方へと近づいてきて、深々とお辞儀をする。



「甲本【こうもと】君、この方は飛翔の学生時代からの友人です」


そう言って、万葉さんの後ろの方が警備員に告げると
警備員はすぐに一礼をしてその場から離れた。


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