悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


神威君の幼い頃の生活が、
そうやって続いてきたものなら(贄)となることに対して
運命と一言でわりきって諦めてしまっている。



飛翔が早城である以上、
総本家の血は神威君で断絶する。



断絶した後、
その愚かな出来事を
するものはもういなくなるだろう。


聡明な彼は、それすらも考えて
動いているのかも知れない。




だったら……手遅れになる前に
動かないと。





彼の命が尽きてからだと
取り返しが付かなくなる。



「いや……」


飛翔は何かを考えるような仕草のまま小さく答える。




「でしたら飛翔、自信を持ちなさい。

 貴方ほど、神威君を思っている存在が
 どこにいるというのです。

 飛翔、貴方の名に託されたまま
 思うままに生きなさい。

 飛翔自身の後悔がないように」




言い放った私の言葉を受けると、
彼は台所のシンクの蛇口をひねると、
冷水に頭ごと顔を突っ込んで、
水を浴びると、ぬれた前髪をかきあげて、
玄関から飛び出していった。







その背中を見送って、
私も時雨へと電話をかける。









私も……このままじゃいけません。








二人を見届ける。





そう……決めたから。






飛翔を良く知る親友たちと共に。










私の言葉は、ただ……
貴方を追い詰めるためだけのメスだけでしたか?



それとも貴方にとっての
優しい雨となりえましたか?






テーブルに残された
飛翔の本当の家族写真を手に取って、
リビングの写真縦に飾られている
早城の家族の写真の隣にそっと立てかける。








……どうぞ……
飛翔をお守りください。








心の中、静かに写真の前で祈りを捧げると、
私も飛翔のマンションをゆっくりと後にした。










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