マーメイドの恋[完結]

夏子は思わず笑ってしまった。
夏子と名付けたのは母親だ。
夏子が夏に生まれたから夏子、ただそれだけのことだった名前を、似合うなどと言う人がいるのは不思議な気持ちがした。


「泳げなくても似合いますよ。俺一番最初に夏子さんが、あの岩に座って海を眺めているのを見て、マーメイドかと思ったくらいですから。夏の日にビキニを着て、長くて綺麗な髪を揺らしてる、そんな風に見えてしまってドキッとしたんです」


「ビキニなんか着てないわよ。あはは。面白い人ね倉沢くんって」


「あっ、エッチな意味じゃないですからね。ほんとに綺麗な人だな〜って思いました。一目惚れしたんですよ夏子さんに」


「私は倉沢くんより、ずいぶん年上だと思うんだけど。何才なの?」


「年なんて関係ないですよ。俺は26歳です。夏子さんは?」


「私は倉沢くんより8つも上なのね」


「夏子さんは今、彼氏とかいるんですか?」


ー彼氏。篤志さんはまだ彼氏ということになるのかな。ちゃんと別れてないからー


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