遅咲きプリンセス。
遅咲きプリンセス。

◆突然のモニター依頼

 
「あっ……すみませんっ」

「あっぶねえ」


課長にお客様がお見えになったそうで、お茶とお茶請けをお盆に乗せて、応接室に向かって歩いていた、会社の廊下、曲がり角付近。

向こうから曲がってきた社員の人と鉢合わせた私は、その彼と危うくぶつかりそうになり、とっさに謝りつつ、身をかわした。

お盆ばかりを見て歩いていた私も悪いけれど、社内の廊下は全て真ん中に線が引いてあり、私は会社の規則通りに右側通行をしていたのだから、どちらかといえば「あっぶねえ」と言った左側通行の相手が悪いように思う。


とにもかくにも、もう一度、お茶を淹れ直すようなことにならずによかった、よかった。

課長は厳しい方なので、その点でも、「たかがお茶汲みだけでどれだけ時間がかかっているんだ」と、お客様の前で叱られることもない。

そうして、ほっと胸をなで下ろしていると。


「つーか、今の誰? 一瞬、幽霊かと思ったんだけど。あんな女子社員いたっけ?」

「うわ、ひっでー。てか、声デカっ」

「どうせ聞こえてねーだろ。幽霊なんだし」


と、一緒に歩いていたもう一人の社員とケタケタ笑い合う声が聞こえはじめて、私はぎゅっと下唇を噛みしめ、応接室へと歩調を早めた。
 
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