遅咲きプリンセス。
「んふふ。どうかな? 鈴木ちゃん」
「どどどどっ、どうって言われましても……」
諸見里さんは人好きのする顔をにっこりと微笑ませ、私に向かって小首をかしげている。
けれど私は、突然のことと、恐れ多いことも相まって、激しく動揺し、どもってしまう。
助けを求めて再度、課長を見ると、とうとう頬を赤らめ、まるで恋を知った初々しい少年のような顔でそっぽを向いてしまい、これでは、課長の助けは見込めなくなってしまった。
「あらぁ~。小野ちゃんったら、まだ試作段階なのに、もう鈴木ちゃんの唇に魅了されちゃったの? いくらなんでも早すぎよぉ~!」
モニターの件を、どうしたもんか……と首をひねって考えていると、諸見里さんは唐突にそう言い、課長の肩をグーで小突く。
そうだ、そうだ。
さっきからやけに引っかかりがあったのだけれど、課長の私に対する態度……諸見里さんにされるがままに唇に何かを塗られたあとから、妙にモジモジしていたし、今も明らかに変だった。
おそらく今、私の唇に塗られているのは、2人が言った『試作段階のリップグロス』なのだろうけれど、分からないのが、諸見里さんが課長を茶化すように言った『魅了』という単語だ。