遅咲きプリンセス。
 
真剣な話をしてくれているときに笑ってしまうのも、空気が読めない課長みたいで、なんだか嫌なのだけれど、菅野君の言い方があまりにも可愛くて、つい笑ってしまった。

そうすると菅野君は、案の定「だから話すの嫌だったんだよ……」と拗ねてしまったけれど、でも、何度もピンチから助けてくれたことや、話したくないことを話してくれた並々ならぬ誠意がとても嬉しく、同時に、とても愛おしい。

例えるなら、パズルのピースが全部はまった感じで、今までの彼の行動にすごく納得できた。

すると。


「この仕事が一段落ついたら、鈴木に告白しようと思ってたんだけど、今日会っちゃったし、マスカラにかこつけてキスしてみました」


菅野君はそう言い、照れたように首の後ろに手を当て、大きなため息をついた。

告白の前にキスをしたのは突発的な衝動だったのだろうとは思うけれど、彼のその、とってもウブな感じが、たまらなく可愛く思う私だ。


そんな菅野君を見つめながら、私は、諸見里さんが言っていたのは、きっとこのことだったのだろうと、唐突に思い立つ。

グロスはあくまで、なりたい自分に変身するための道具にすぎないけれど、そういうちょっとした手助け的なアイテムがあるからこそ、女性は美しくなれ、男性はそんな女性に恋をする。
 
< 58 / 61 >

この作品をシェア

pagetop