職業「アイドル」



「お疲れ様でした!」



11月の冷たい空気に、白い息が浮かび上がる。



なんとか夜が明けきる前に家路に着くことが出来たことにホッとする。


万智子さんの運転する助手席に座った瞬間、私の体は鉛の様に重くなって、もう目を開けておくことも出来ない。


自分が思っている以上に体は正直。


「桃、年末年始に向けてまた忙しくなるから今日はしっかり睡眠とりなさいね」


「うん」


「ごめんね、こんなスケジュールの組み方で」


心配と申し訳なさの含まれた万智子さんの声音に、遠くなる意識がふっと戻ってきた。


「私たち以上に万智子さんの方がハードじゃない。今日も仕事なんでしょ?いつもありがとう」


万智子さんの他にも私たちの担当マネージャーは2人いる。


でも万智子さんは、私たちが結成された頃からずっとついてくれていて、休みの日でも体が空いていれば必ず現場に顔を出してくれる。


時には誉めてくれたり、時には本気で叱ってくれたり、一緒に泣いてくれたり、お母さんのようなお姉さん。


当初は新人だった万智子さんも、30歳を過ぎて、すっかり婚期を逃してしまったと、たまに愚痴るくらいで、とっても優しいマネージャーなのだ。


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