桃の花を溺れるほどに愛してる
「ただいまー」


 私が玄関でそう言うと、リビングからお母さんが顔を出した。


「おかえりなさーい!ささっ、天霧さん!待っていましたよっ」


 ニコニコと微笑みながら、春人を迎えるお母さんに苦笑いを浮かべる。

 お母さん、よっぽど春人のことを気に入っているんだろうなぁ……。

 なんか、他のお客さんが来た時とはまた違うテンションに見えるし。


「こんばんは。ご無沙汰しています」


 春人はというと……車の中ではものすごく緊張していたわりに、余裕を思わせるような笑顔を浮かべた。

 初めて家に来た時も、大人の対応をしていたし、やっぱりやる時はやる人なんだな……春人って。


「お父さん、帰ってきているよね?」


 玄関に靴があるし、今日もいつものように仕事を終えて帰ってきているはず。

 私が“お父さん”という単語を使った瞬間、春人はピクッと反応した……ように見えた。気のせいかな。


「ええ。中でテレビを見ているわ。でも……天霧さんが来るって言ったら、変に気合いをいれちゃって。緊張しているのかしら?」


 お父さん、緊張しているんだ……。

 娘の彼氏と初対面……なわけだし、どんな人なのか気になるわけだろうし……みんな、緊張するものなんだな、うん。
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