桃の花を溺れるほどに愛してる
「お母さん。またね」

「ええ。何かあったら、すぐに連絡をちょうだいね?いつでも駆け付けるから」

「いや、さすがにそれはちょっと……」


 お母さんとの別れの挨拶を済ませると、春人が乗っている赤い車に向かって駆け寄る。


「それじゃあ、行こ!」

「もうご挨拶はいいんですか?」

「うん。済ませたよ」


 荷物を後ろの座席に置き、車に乗ってシートベルトを締めながら答える。


「分かりました。それじゃあ、行きましょうか」


 そうして、車は動き出した。

 春人と出会ってから、高校を卒業するまでの間、何度か春人の家に遊びに行ったのに……緊張する。

 今回、春人の家に行くのが遊びに行くんじゃなくて、住みに行くから……?


「桃花さん」

「ん?」

「僕達の人生、これで終わりじゃないですからね」


 そりゃあ……そうだ。

 私も春人も人生はまだまだこれからだし、わざわざ言われなくっても分かっているのに……。


「まだ始まったばかりです」


 ――ああ、そういうことか。

 私と春人――2人で共に歩む人生は、まだ始まったばかりだと……彼は言いたかったんだ。


「そうだね」


 私が笑うと、春人も釣られて照れ臭そうに笑った。


 これから先の人生……終わりがやってくるその時まで、私はあなたの隣で笑っていたい。……ううん、笑っていることを、誓います。


「桃花さん。世界中で誰よりも1番、あなたのことを愛しています」


END.
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