カリス姫の夏

「守られたい?」


さやかさんの言葉の意味を確かめるようにくり返し、華子さんはその真意を探るようにさやかさんを見つめた。その鋭い視線に耐えられないのか、さやかさんは長いまつ毛を細かく揺らしながら目を閉じ、押し黙った。


そんなさやかさんの態度に、華子さんは引っかかったのだろうか。数秒間瞬きもせず見つめる。そして、華子さんはその視線を動かさず鋭い声を発した。


「かいわれ!
すぐに検索して。
あんたのスマホで。
桐生さやかってね。
さ・や・かはひらがなだから」


「え……あっ、はい」


華子さんの言葉の意味など、藍人くんが理解できるわけもない。彼は、言われるがままにスマホを取り出した。私だって、その言葉の意味など分かりゃしない。迷子の子猫のように、不安な気持ちを抱えたまま、2人の大人の女性をただ見比べ尋ねた。


「どういうことですか?
さやかさんを調べて……どうするっていうんですか?」


さやかさんは、華子さんの意図する言動に気づいているのだろう。悲しそうな表情で『やめて』と言いたげに首を小さく振った。けれども華子さんの食い入るような視線に諦め、ただ目の前の高校生が傷つかない事だけを願うように、私達をじっと見守っていた。
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