カリス姫の夏
華子さんは私のカバンを勝手に探ると、スマホを取り出した。そして、スマホはバシッと音を立てて私の手のひらに乗せられた。


眼鏡の奥の目はしっかりと見開かれ、その眼光は鋭く私の心を突き刺す。現実から逃れたいと願う軟弱な私を決して逃がすまいと、その視線は1ミリもぶれない。


その視線に私は返答した。


そう、私も本当は気づいている。
ただ、それを認めるのが辛すぎた。


私の気持ちを感じ取ったのだろう。藍人くんは後ろから、私の肩にそっと手を置いた。掛ける言葉が見つからず、それでも私を守りたいと願う彼の精いっぱいの真心が私に勇気をくれる。


私の指は戸惑いを隠しきれず、何度か打ち間違いをしながら、パスワードとIDを打った。ログインされたサイト。それは、この1年半の間、私が心の支えにしてきた場所。もっとも居心地がよく、信頼していた仲間達。



私の入室を報(しら)せる文字が表示されても、住人達は白熱した議論を展開し、私に気づいていないようだ。


画面をスライドさせ、過去のログを素早く読んだ。そこには私の予想を超える信じられない言葉が並んでいた。


「どうして……こんなことになっちゃったの?
何が悪かったの?
どこで間違ったの?私達」


私を支えていた何かが抜け落ち、膝から崩れ落ちそうになる。脱け殻となっただらしない体を、藍人くんに預けた。背中感じる彼に鼓動が、私の鼓動を同調していると感じ取り、なんとか現実を支えてくれる。


「なんで……なんで……」


口をつくのは、できれば他人のせいににして傍観者に甘んじたいと願う、卑怯者のたわごとばかりだった。でも、そんなことが許されないことも否応なしに叩きこまれ、私の瞳からは熱い水滴があふれた。


「なんで……
なんでこんなことにーーー」


全身を震撼させる私が崩れ倒れないよう、藍人くんは後ろからギュッと私を抱きしめた。


静かに流れる涙が、頬を伝いポツリポツリとスマホの画面に落ち続けた。この涙が、画面に映し出された文字の羅列を消し去ることができれば。


そんな叶うはずのない幼稚な願望が、私の中を通り過ぎた。


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