カリス姫の夏

厚手のカーテンを閉め切られた私の部屋は、お天道様が真上にあるこの時間も真っ暗で、快適な睡眠を提供してくれる。


『子供部屋は角の日当たりのいい部屋で』と思い設計したのであろう親心を無下(むげ)にしているようで心は痛むが、太陽との和解はまだ成立していず、今年もこのカーテンを開ける予定はない。


エアコンを付けっぱなしの部屋でタオルケットを顔までかけて寝ていたが、外で遊ぶ小学生の遊び声にまざり、自分の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がしてパチッと目を開けた。


けれども、しばし考え「気のせい、気のせい」と再び睡眠をむさぼろうと目を閉じる。


この年代の女子は貪欲(どんよく)なのです。
特に睡眠欲には。


「莉栖花!
起きなさい。
なんか荷物届いたよーーー」


私を呼ぶ声は、夢でも幻聴でもなかったらしい。


この声の主は間違いなく私の母、多部恭子。

1週間、ぎっくり腰で全治1カ月と診断されながら、驚異的な回復力で掃除機を掛けられるまでになり、昨日はスーパーのタイムセールにもせっせと出かけたが、なぜだか韓ドラが入る時間になると「うーん、腰痛くて……」と言ってテレビの前にはりつく、母の声だ。


1階から響く声の『荷物』という部分の反応し、私はバネのおもちゃみたいに飛び起きた。そして、ドアの角に足の小指をぶつけながら階段を駆け降りた。


「きゃー、届いたんだ。
織絵ルーナのDVD!!」


お母さんの手には宅配便の紙袋。

その小荷物を奪い取り、食卓テーブルの上に置かれた菓子パンを口にくわえると、最後に冷蔵庫からペットボトルのミルクティーを取り出した。


「莉栖花、あんたまたなんか買ったのかい?
お金はあるの?
だいたい、今何時だと思ってるの?
お父さんの仕事、手伝わなくていいからって昨日も夜更かししてたんでしょ。

時計見てみなさいよ。
もう、お昼だよ。

ねえ、ちょっと、ご飯くらいここで食べなさい」


お母さんの説教を右から左へ受け流し、うんうんとうなづきながらも、そのまま2階に舞い戻った。


申し訳ありませんが、返事できません。
口にパンくわえてるもんで。


部屋に入ると宅配の袋を、ビリビリと破りそのまま袋をゴミ箱に向かって投げ捨てる。紙くずはゴミ箱に入らなかったが、そんな細かいことは気にしない。


私の睡眠時間とほぼ同じ時間しか休憩を取らない働き者のパソコンの電源を入れ、荷物の中身をセットした。


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