年下彼氏はライバル会社の副社長!(原題 来ない夜明けを待ちわびて)
「それで迷惑だと……」
「うん」


 個室に戻りベッドの枕を背もたれにして上半身だけ起こす。椅子に腰掛けた由也くんと話をした。妊娠に気付いて検査薬をまとめ買いし結果反応が出たこと、産むか堕ろすか悩んだこと、産んだら由也くんが自分を責めるんじゃないか、隠し子の存在が明るみに出たら経営に影響が出やしないか、なら一人で産もうかとも思った。でもその勇気もなかった。


「それで鎌谷さんに?」
「うん」


 書類に署名捺印を頼むと鎌谷の子として産まないかと持ち掛けられた。でも鎌谷のご両親を思うと偽って出産など出来ない、大体由也くんの子を鎌谷の子として育てるのは由也くんと私の関係を否定したことになる。


「そうでしたか。ちょっと妬けます。鎌谷さんは綾香さんのことが好きなんじゃないんですか」
「全然そういうんじゃないし。俺様だからね、カーっとなると止まらないんだよね、あの馬鹿」
「でも羨ましいです。僕にはそういう同期はいないから」
「そっかあ」


 由也くんは入社したとき一般の新入社員と同じ扱いを受けた。でもそれは制度上の話で、回りは一目置いたというか距離を置いた。廊下を歩けばヒソヒソ話、頼まれたコピーを持っていくだけで褒められたりと、居心地も悪かった。そんな空気で同僚など出来なかった。

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