キス中毒
ふわりと、ベリーの香りがした。
私のグロスが唾液と混ざって、二人の唇の間で指先が濡れる。


貴方の唇も私の唇も、同じくらいの温度で、熱い。
二人の気持ちも、同じくらいの熱であればいいのに。



「なぁ」



男が何かを言いかけて、私と同じように逡巡して飲み込んだ。


そうして、言えない私たちは
また、言葉の代わりにキスをする。


何度も、何度でも。



――――――
―――


コツコツと床を叩く足音がして、いつもの時間に警備員が見回りにくる。



「もうすぐ施錠ですよ」

「はぁい、すみませんいつも遅くまで」



パソコンの電源を落として、帰り支度をしながら返事をした。
残業したにも関わらず、あまり進んだとは言えない仕事を家に持ち帰ることにした。



「もー、全然終わらないじゃん」



唇を尖らせてそう言うと、同じく帰り支度をしている男が肩を竦めた。



「いいじゃん、明日も残業すれば」



しゃあしゃあと、そんなことを言う。
私は答えに困って黙り込んだ。


――― 残業したって、仕事進まないじゃん。


そう思いながらも、明日もきっと残業のつもりで予定を組むだろう、私はすっかりキス中毒だ。


end.

< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:75

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

もう一度 恋をするなら
  • 書籍化作品

総文字数/52,762

恋愛(オフィスラブ)58ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【書籍版とは内容が異なります】 手が届きそうだった初恋が目の前で搔き消えた―― 今年で三十歳、友人の結婚や出産報告も増えてきた。 祝福する気持ちはあるけれど、燈子はずっと恋愛から遠ざかったまま仕事に没頭する日々を送っていた。 そんなある日、偶然再会した初恋の彼。 明るく優しかった彼は、昔と様子が違って見えて…… 今井燈子(29)看護師   × 弓木薫(29)MR 心の奥にしまった初恋に、光が灯る
あなたの愛は重すぎる

総文字数/124

恋愛(純愛)1ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【作品準備中】 「気安い恋しかしないと決めてるから」 婚約者を亡くして三年 寂しい夜を埋めるだけの恋しかしないと決めた 私ひとりの人生では済まないから そんな私に あなたの愛は、重すぎる
エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
  • 書籍化作品
[原題]今夜、君は俺の腕の中

総文字数/119,762

恋愛(純愛)185ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
冷たくされても信じていた それが馬鹿だったのかもしれない だけど、愛した人を信じることの、何がいけないのとも思う ただ、視野は狭くて ひとりしか見えていなかった 慰めを求めた人の方が どうしてこんなに温かいんだろう 彼氏の裏切りに気づけなかった おっとり派遣社員 後藤雅(25) × 片恋こじらせエリート医師 高野大哉(29)

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop