キス中毒
ふわりと、ベリーの香りがした。
私のグロスが唾液と混ざって、二人の唇の間で指先が濡れる。


貴方の唇も私の唇も、同じくらいの温度で、熱い。
二人の気持ちも、同じくらいの熱であればいいのに。



「なぁ」



男が何かを言いかけて、私と同じように逡巡して飲み込んだ。


そうして、言えない私たちは
また、言葉の代わりにキスをする。


何度も、何度でも。



――――――
―――


コツコツと床を叩く足音がして、いつもの時間に警備員が見回りにくる。



「もうすぐ施錠ですよ」

「はぁい、すみませんいつも遅くまで」



パソコンの電源を落として、帰り支度をしながら返事をした。
残業したにも関わらず、あまり進んだとは言えない仕事を家に持ち帰ることにした。



「もー、全然終わらないじゃん」



唇を尖らせてそう言うと、同じく帰り支度をしている男が肩を竦めた。



「いいじゃん、明日も残業すれば」



しゃあしゃあと、そんなことを言う。
私は答えに困って黙り込んだ。


――― 残業したって、仕事進まないじゃん。


そう思いながらも、明日もきっと残業のつもりで予定を組むだろう、私はすっかりキス中毒だ。


end.

< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:75

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

あなたの愛は重すぎる

総文字数/124

恋愛(純愛)1ページ

表紙を見る
エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
  • 書籍化作品
[原題]今夜、君は俺の腕の中

総文字数/119,762

恋愛(純愛)185ページ

表紙を見る
離婚予定日、極上社長は契約妻を甘く堕とす
  • 書籍化作品
[原題]離婚予定日のはずですが

総文字数/110,207

恋愛(オフィスラブ)208ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop