あなたから、kiss




今日も、私のデスクには…コーヒー。



木製のカップに入ったそれは、私の…元気の源









「雨宮くん、S印刷さんに入稿しに行くけど…一緒に行ってみる?」


「はい。」







変わったことと言えば…、

好評を得た雑貨屋の記事の一件以来…。


彼が、社員の仕事に少なからず…携わるようになったこと。



初めは、私について。


それから…、男性ファッション誌などにも……ちょいちょいお呼びが掛かるようになっていた。




「若いって、その分伸びしろが大きくて…怖いですよね。ここを出て、他社に就職したら…、脅威かも。」



タカちゃんは、彼の飛躍ぶりに…目を見張っているようだった。



「私のオアシスが……、ああ~……。」


「………。タカちゃん、本命じゃなかったの?」


「あーゆーデキる男は、こーんなキャピキャピした女には見向きもしないですよ。自分を高めてくれるようなメスを求めるもんです。」


「……ふーん…?」


「先輩はいいですネ……。」


「…ん?」


「彼の教育係が板についてます。」


「それ、嬉しくないし。」


「……冗談ですよ。彼の尊敬の眼差しは……いつも先輩に向けられてるから、ちょっと羨ましいんです。」







タカちゃんが言うその言葉は…、半ば嘘ではないことくらいは、気づいてる。


だけど、その関係性は……



あの頃のまま。





仕事の話を頻繁にするようになったくらいで……


ドライで、落ち着いた口調も。


私に向ける鋭い指摘も。



ある一線を…越えることはなかった。










この冬を越えると……。


彼は、ここから居なくなる。







それを知ったのは…


つい、最近のことだ。





< 34 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop