それでも僕は君を離さない
私は資材室のドアを閉めて

しばらくその場に突っ立っていた。

どうして彼がここにいるのかしら?

もちろん就職したからだ。

私はその事実にショックを受けた。

彼は笹尾忍。

大学の先輩で、私と違い、大学院まで行った人だ。

同じ研究チームにいたため

彼とはほぼ毎日顔を合わせていた。

私たちはカビの胞子や発酵菌を顕微鏡でのぞく日々を追っていた。

膨大な量の資料とレポートと卒論の作成で

多大なアドバイスを私に与えてくれた大先輩なのだ。

しかも私のロスト・ヴァージンの張本人なのだから

過去の記憶と現在の置かれた状況からして

これは私にとってかなりの打撃となった。

早くこの放心状態から覚めないとダメだと思いつつ

この先どう対処すればいいのか不安でいっぱいになった。

あれこれ考えていたその時

背後でカチャッと音がしてドアが開いた。

私は心臓がドクドクした。

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