だから私は雨の日が好き。【花の章】

臆病






――――――――――――――……
―――――――――――――……




森川君を特別だと認めてしまったあの日から、私達は一度も会うことがなかった。

正確には『会社以外で』会うことが無くなったのだ。


以前は私が連絡をすれば、どんなに忙しくても来てくれた森川君。

そんな彼の返事は『今は忙しいので会えません』の一言だった。


同じ会社なので、企画営業部がいかに忙しいかを知っている。

確かに冬が近づくと信じられないくらい忙しい部署だが、秋の終わりは仕事が落ち着くことも知っていた。

それなのに『忙しい』の一言で一蹴されてしまうとは。

何か避けられるようなことでもしたのだろうか。




以前の私なら、なりふり構わず相手に詰め寄って理由を聞きだすことをしたのだろうけれど。

今の私にそれは出来ない。


確かに森川君は大切だけれど、ではそれが『好き』と呼ばれる恋愛感情なのかどうかは分からない。

大切にしたいと想う。

傍にいて、悲しそうな時に一緒にいてあげたいと想う。

これを恋愛感情なのだと素直に言えたなら、どんなによかったか。




初めて目の前にした彼は、私と良く似ていた。

お互いに向き合うと鏡を見ているようで、二人とも苦しくなった。

同じ苦しさを、同じ切なさを知っている人。

自分の一番欲しい人と、それと同時に一番妬ましい人を想い出す存在。


向き合って彼を見た時に想った。

自分を見ているようだと。

だからこそ、救ってあげたいと。




この感情が『同情』でなくて、なんだと言うのだろう。




< 108 / 295 >

この作品をシェア

pagetop