だから私は雨の日が好き。【花の章】





兄貴が何も言わずに、櫻井君にお酒を渡す。

二人で目を合わせて乾杯をした。

お酒を流し込んだ後、櫻井君の煙草を貰って火を付けようとする。

ライターをかざしてくれた櫻井君に甘えることにした。


吸い込んだ煙は久しぶりの味がして。

どれだけ彼に会っていなかったのかを思い知らされるものだった。




「・・・行けば、いいじゃねぇか」


「何処によ」


「会いに、だよ」




相変わらず、勘の鋭い男。

どうしてか私の想い出した人物が誰なのか、すぐに分かってしまったらしい。


嫌味な男は外見までも嫌味なヤツなので。

どんなことをしていても様になることに少しだけ苛立ちを覚えた。




「・・・行かないわよ」


「素直じゃねぇな」


「だって、素直になったことなんてないわ」


「だからだろ?今ならなくて、いつなるって言うんだよ?」




櫻井君の言うことも分かる。

自覚してしまったからには、今が頑張り時であることも。


けれど私は三十路を過ぎた女なわけで。

今更自分から踏み出す恋愛を出来る程、勇気がある訳でもない。




――――『一月一日、零時。駅前の大型ビジョンに来て』――――




だから、賭けるんだ。

彼が言った言葉に。

彼なら信じてもいいと。

自分の心が想っているから。




「・・・信じてるのよ」


「ん?」


「信じてみたい、と。想わせてくれた人を、私は信じてる」




『そうか』と言った櫻井君に『そうよ』と言ってカウンターを離れた。

櫻井君の言葉は『頑張れ』に聞こえた。




運命の日まで、あと二日。

私はとても清々しい気持ちで、同期の席へと戻って行った。





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