だから私は雨の日が好き。【花の章】





俺が後悔しないため。

それは一体どういうことなんだろうか。

俺は、その真意を読み取ることが出来なかった。


櫻井さんは困ったような顔から、とても優しい顔になった。

柔らかく懐かしそうに目を細める姿が、俺に何も言わせない雰囲気を持っていた。




「あいつの兄貴は『湊』という名前だ。

親同士の再婚で、二人は兄妹になった。

だから血の繋がりは一切ない。

俺が時雨の存在を知ったのは、湊に義理の妹がいると知った時だった。


まぁ、湊は逢わせてくれなかったけどな。

誰にも紹介する気なんてなかったみたいだ。

名前を教えてもらうのに一年近くかかったんだぞ。


湊は、少し前の時雨みたいなヤツだった。


誰にも心を開かず。

誰かと深く関わることをせず。

ある一定の距離から世界を眺めているような、そんな感じだった」




純粋に『似てる』と想った。


何にも真剣に向き合えないでいた時雨。

誰かと深く関わることを、極端に避けていた時雨。


その行為はまるで、自分の大切なものを無くさないために必死になっているようにも見えた。


何となく知っていた。

過去に縛られていることを。


いや。

『縛られている』という表現は適切ではないかもしれない。



『縛られていたい』と、時雨が望んでいるようだった。

『大切だ』と簡単に口に出せるほど、単純な想いではなく。

『忘れたくない』と表現できるほど、時雨は素直ではなかったから。




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