だから私は雨の日が好き。【花の章】





時雨の言葉に小さく笑って、そっと頭の上から手を離す。

名残惜しくならないように。

俺の熱がそこに残らないように。


そんなことを考えている顔を見られたくなくて、そのまま出口へと向かった。



今はこれが限界なんだ。

色んな嘘を時雨の前で積み重ねてきた結果が、これだ。


結局、背中に乗るものが大きすぎて今の自分を苦しめている。



それが、時雨を守った証になるなら。

それもいいかもしれない、と思った。



背中に時雨の視線を感じながら、俺は俺の道を行く。

でも、どこかで時雨と繋がっていると信じて。



それは、恋人でなくてもいいはずだ。

一番近くで支えるのは、櫻井さんにしか出来ないのだから。



俺は何番でもいい。

時雨の傍にいて、話を聞いていやれる距離にいれればいい。

時雨が、さりげなく気付く距離でいい。




「森川」


「ん?」




営業職をしていて、こんなに良かったと思うことはない。

外に行く顔になれば何も悟られたりしない。




「森川。さっきの質問の答えだけ、教えて」




本当に。

時雨には誤魔化しなんて何も通用しない。


答えを言わずに上手くかわした俺に、もう一度、同じ質問を投げかけてくるなんて。



世の中は白と黒だけではない、と。

灰色のままでいることも出来るのだ、と。

そう言ったのは自分自身だというのに。



いや。

教えてくれたのは『湊さん』だったか。




それでも。

大切な人からの忘れられない教えを。

簡単に無視してしまえるほど俺の返事が欲しいのか、と思った。



それは、俺を意識しているという点では喜ばしいことだった。

けれど、曖昧にさせてくれない真っ直ぐさが、今は痛かった。




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