嫉妬する唇
アイツとあたし
その瞬間、あたしの身体は全ての動きを止めた。



金縛りにあった経験なんてないけど、今のあたしの状態はそれに近いんじゃないかって思う。




トイレから出たあたしの目の前で繰り広げられていた濃厚な……キス



というより、あれはもう前戯だと言った方がしっくりくる。



別に、他人のそんな場面に出会したからって今さらポーっと頬を赤らめるような純なお年頃じゃないけど、彼女の後頭部から覗き見えた男の顔に、あたしは、全身の動きを奪われた。




彼女が自立して立っていられないほど濃厚なキスをしながら、その男の視線は確実にあたしをとらえていて、




挑戦的なその目に、なぜだか全身にゾワッと鳥肌がたつ。


捕らえられた視線から目を逸らすことができず、呆然とその光景を見続けるしかないあたし。




どのくらいそうしていただろう。
ハっと正気に戻って視線を逸らすまで男の視線はあたしから外れることはなかった。




そのまま横を通りすぎるわけにもいかず慌ててトイレに戻った。




頭は十分混乱しているように思えたけど、背中を向けた彼女に気付かれないようにそっとドアを閉めて身を潜めることがてきるなんて、案外冷静なのかもしれない。

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