御主人様のお申し付け通りに
やっぱり結婚して離婚したら、他人なんだ。

恋人同士で別れて、ヨリを戻すのとは崩れた度合いが違う。

高々紙切れ一枚で結婚して。

離婚する時は、紙切れ一枚でも女は何度も銀行や役所に行く。

すっごい面倒臭かった。

結婚ってのが、まずもって面倒臭いんだって分かった。

そんな面倒臭い幸せは、もう要らん!

私は家に帰り、着替えて、すぐにお風呂に入りに行く。

早くキスした、口唇を洗い流したい。

いや、今日の私を洗い流したい。

甘えついでで、気軽に舌を入れてキスしてしまった、自分を洗い流したい。

脱衣場で、パンツとブラを外して、風呂場の戸を開ける。

…はっ!

びっくりしたぁ。

湯船に浸かりながら、気持ち良さそうに物音一つ立てず、居眠りする永田がいた。

コイツ、なんてキレイな顔してんの。

男のくせに。

静かにしてりゃ、こんなに良い男なのに。

「…?」

永田は気が付いたのか、ゆっくりと流し目で私を見た。

ドキッ…。

「お、お邪魔しましたーっ」

私は、後退りして出て行こうとすると、呼び止められた。

「おい、たまには湯に浸かると疲れが取れるぞ」

「あんたが入った後にする」

「まぁ、遠慮するなって」

ヒョイ、ヒョイっと手招きされた。

バカ正直に近寄るから、私はつくづくバカだと思った。

永田に反発なんて出来ないよ。

自分の首を閉める事になるんだから。

私は身体を洗って、湯船に浸かる。

「どっこらしょ」

私が入ると、湯が風呂桶から溢れ出した。

「……」

何か突っ込まれるかと思いきや、しばらく何も言わず永田は黙っていた。

「……」

私もこの沈黙が気まずくて、何かないかと会話を探していた。

「ね、永田は彼女とかいるの?」

「気安く俺の名前を呼び捨てするな」

くっ!

何だ、コイツ。

「じゃ、何て呼べばいいわけ?」

「永田様と呼べ」

バカじゃねーの!

「ね、いつも一人で家の中で何してるの?」

「さぁな」

はぐらかされた。
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