-The Real Me-
「どうして“母親”は急にそこまでして人格を欲しがったんだ…吉野を精神的に追い込む為だとしても、父親を殺すなんて……そこまでする必要はないはずじゃ?」

 確信をつく中条の問いに医師は少し躊躇したが、全てを話す事にした。事件の発端はそこにあった。



 私もどうしても、そこは分からなかった。何が彼女をそこまで狩り立てたのか…。


「一体何があったっていうんだ!?」

 私は追求した。そして彼女はその動機を話してくれた。

「あの娘は、また私から大切なものを奪ったの……」

「大切なもの?」

「…私見ちゃったの。多恵が、夫に抱かれているところを……」

「!?………」

「気持ち良さそうな顔してたわ…あの人もそう、私の事なんて忘れて夢中で娘を抱いてたわ。その時思ったの……殺さなきゃって」



 人間としての心を失ったかの様な、身勝手で悪質な犯行に思えた…。
 しかし、ソレこそが、彼女の純粋過ぎる程の人間らしい部分こそがこの悲劇を生んだんだ……。


 君のお父さんは、君の症状を受け入れる事にした。

 日常は“娘”の父親として。そして眠りについたと同時に目覚める“母親”としての君も。ずっと父親と夫の二役を演じてきたんだ。

 その上で、夜には夫婦としての生活も行なっていた。

 おそらく、その最中に偶然瞬間的に人格が入れ替わってしまったんだろう。
 そこで見てしまった。母親として、一人の女として、自分の夫が自分の娘を抱いているところを……。
< 28 / 32 >

この作品をシェア

pagetop