淋しいお月様
電話はまだ繋がっていて、ぽろん、ぽろん、と遠くでピアノの音がする。

ほんとに作曲中のようだった。

「……ごめんね……切るね」

私はそっと呟くと、終話ボタンをタップした。

作曲中は、神経ピリピリしてるって云ってたな。

だけど、私はしょんぼりしてしまった。

セイゴさん、まるで別人のようだった……。

プロ意識って、こういうことなんだろうな。

何だか、胸の奥が、すんとする。

淋しい……。

「……って、これが私のダメなところだよね」

私はウサギのぬいぐるみに向かって云った。

すぐ男の人に依存してしまう。

これがダメなところ。

私はぬいぐるみをそっと手に取り、天井に翳した。

「見てて。私、自立した女になる!」

よし、と私は意を決した。

ちゃんと家事に仕事に、こなせる自分になろう。

すがってたお酒も、当分断とう。

だけど、セイゴさんから貰ったぬいぐるみには、すがろう。

こころの支え。

私はそれをぎゅっと抱いた。

「セイゴさん……愛してる」
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