お姉ちゃんの憂鬱

「誠、頭出して」

「あたま?」



不思議がりながらもちゃんと頭を近づけてくれる誠。

横になったままのあたしは、そのまま誠の頭を抱き込んで染め直した黒髪に顔をうずめる。



「え?!かなちゃん?!まだ寝ぼけてんの?!」



途端にわたわた慌てだす誠に笑いがこみ上げる。

そうだよ。まだ寝ぼけてるってことにしておいて。



「大人しくして」

「…はい」



あたしの一言にすべて従ってしまう誠は、確かにまどかの言う通り、飼い主の言うことが絶対のペットみたい。



…たまに噛みつかれるけど。




「…あの、かなちゃん?この体勢は大変うれしいんですが、どうしたんですかね?」


「どうもしないよ?あんたはいつも好き勝手くっつくのに、あたしがくっつくのはダメなの?」


「いやいや滅相もない!どんとこいばっちこい!こんな嬉しいことならいつだってウェルカムだよ!」


「うるさい。」


「ごめんなさい」



大きく息を吸い込んだ。

これはあたしが安心するにおいだ。




「あたしは思っている以上にあんたのことが好きみたい」



だって今、ものすごく心が落ち着いている。

それに、もっとこの存在とくっついていたいとも思う。



これは紛れもなく『愛おしい』という感情。



「好きだよ。誠」



たぶんもう離れられないと思うくらいには好きだよ。



「おれも、好き」





< 210 / 335 >

この作品をシェア

pagetop