深い闇の中から
第1説
 毎晩テレビをつけっぱなしにして眠る。12時ちょうどに真っ黒なサングラスをかけたおじさんが司会者の、いつもの番組が始まる頃に起きる。
平日は、いつもこの生活リズムだ。
 昼間は、何もすることがない。夜になっても何もしたくないし、ただぼーっとテレビを見ているだけ。

 カーテンを閉めきって、薄暗く殺風景な部屋の中で一人。ベッドの上に寝転がり、じっと天井を見つめている。
昼間は、特におもしろいことは無いし、ドラマの再放送にも興味は湧かない。
何もしていないが、困ることは何も無い。
毎日、夜になれば決められた時間に、食料が支給される。
夜はやっぱりテレビを眺めている。
他人から言わせれば、ただのひきこもりだと言われるだろう。
だけど、ひきこもったつもりはない、この生活に満足しているだけだ。

 外へ出れば、他人からは笑われるし。誰かに話しかければ当然避けられてしまう。物心ついたころから誰かに接することが嫌になった。
それに比べて、今の生活はどうだ。何もしなくてもいいし、誰からも笑われることも避けられることもない。テレビは毎日楽しい話題を持ち込んでくれるし、食べることにも困らない。
 この生活に慣れてからと言うもの、他人の言うひきこもり生活に魅了されている。

トントン

 ドアを叩く音、それが飯の時間の合図、母親らしき他人とは言っても、本当の生みの親ではないだけで、戸籍上では実の母親がそっと部屋の扉を開け、食料を支給してくれた。
床に置かれたお盆には、くまちゃんの絵柄の入った茶碗にご飯、かわいらしい猫が描かれたお皿に焼き魚、秋刀魚だ。そして、木目の入ったプラスチック製のおわんには味噌汁が、これが今日の食料だ。
 お盆を持ち丁度窓際にある机に置き、食べる事にした。
とてもいい香りがする、食欲をそそられると言うのだろうか、他人からすればおいしいと舌鼓を打つのだろうが、僕にとっては気分が悪くなり不快に感じる。
 まずこのお米の臭いだ、たんぱく質の臭いが胃を刺激して、嘔吐しそうになる。それからこの焼き魚。丸々一匹の秋刀魚の目玉が、僕の事をじっと見つめている、その得体の知れない感じが嫌いだ、箸でつんつんと目玉を突く。
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