Love it.
その日帰宅したあたしは、複雑な気持ちのまま湯舟に浸かっていた。

当麻さんの気持ちを想うと切ないけれど、早瀬さんの好きな相手が別の人でよかったという安堵感が入り交じる。



「あたしに出来ることって何だろう……」



彼が弱っているだろうこの機会にアタックする……なんてしたたかなことは、臆病ウサギのあたしには出来そうもない。

他に出来ることと言ったら、やっぱり彼を元気づけることくらいだ。


鼻の下までお湯に浸かり、ぶくぶくと息を吐きながら目に入ったものは、最近お姉ちゃんが使い出したヘアオイル。

これ、すっごくいい香りがするんだよね……

近くを通るたびにフルーツのいい香りがふわっと鼻をかすめて、それだけでいい気分になれちゃうの。


柑橘系の香りには心身ともにリフレッシュさせる効果があるってよく言うし。

もし当麻さんのもとにこの香りが届いたら、少しは彼を癒せるかも……?


そんな単純な思い付きで、あたしはヘアオイルをお借りすることにした。

彼に一定の距離を保ってしか近付けないあたしには、これが精一杯のアピールにもなる。

どうか、あたしの想いも届きますように──。


一年経って、肩の下まで伸びた長い髪の毛に、小さな乙女心とともに魔法の香りを馴染ませていった。


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