堕ちてくる
あまりに奇怪なその死に方に、警察は事件と事故、その両方の線で捜査を行う事にした。
「で、先生様。死因は何なんです?」
「これ、なんだかわかる?」
白い手袋の上には、小さな黒い物体があった。
「ん?」
剛田は、それを手に取ろうとした。
「気をつけろよ。」
監察医の安原が言ったその言葉の意味を、剛田は全く理解してなかった。
「そんな事言われなくたってわかってるよ。何年、この仕事やっていると思っているんだ。」
体が言う事をきかなかった。安原の手にある物体は、一センチもないくらいに小さな物体だ。普通に考えれば、せいぜい十グラムとかそんなものだ。それが、ずしりと重い。
「うわっ。」
バランスを崩し、安原に抱えられた。
「悪い・・・。」
「だから、気をつけろって言っただろ。」
「そう言われても、普通はこんなに重いなんて思わないだろう。そう言う事は、きちんと言ってくれよ。」
剛田と安原は、高校の時からの友人だ。なので、安原は剛田をからかってみたのだ。
「ま、こんな物はめったにお目にかかれるもんじゃないしな。たまのお遊びだと思ってくれよ。」
剛田は安原の言葉に、敏感に反応した。
「おいおい。お遊びだと。人がひとり死んでいるんだぜ。」
高校の頃、風紀委員なんかをやっていた剛田は、正義感の塊と言っていいほどだった。だから、こういう場でのお遊びは御法度だ。安原は、それを完全に忘れていた。いや、忘れさせるほどに、この物体は不可思議なものだった。
「すまん。ただ、この物体は本当に貴重なもの・・・、と言うか、地球上には存在し得ない物なんだよ。」
「存在しない?」
「あぁ。地球上にあるもので作る事は出来るだろうけど、今、この物体を作る技術なんてどこにもない。つまり、宇宙で何らかの要因で作られたもの。そうとしか思えないんだ。」
UFOとかそう言う類のものに目がない安原は、こういった物に対する知識は玄人はだしだ。剛田は、ただ感心し、安原の説明を黙って聞いていた。
「そして、死体の傷。頭のてっぺんから腸まで、一直線に穴があいているんだよ。」
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