堕ちてくる
叫び
サイレンの音が、急に聞こえてきた。波紋のように拡がる音は、彼の耳にも届いてきた。
―――まさか。
窓を開け、音の元を確認した。少し遠くに、赤い光が見えた。机の上にあった双眼鏡を手に取り、車の中を確認した。街灯に照らされ、運転手の顔が見えた。
―――あいつだ。
怒りの炎が灯るのに、時間はかからなかった。
―――なんで、こんな所にいる?まさか、僕が何かをしているとでも思っているのか?
考えは巡る。体中を巡る血液と共に、様々な考えが巡る。
―――待て。仮に僕の事を見張っていたとしても、証拠がない。僕自身だって、さっきの山下の事がなければ、確信を持てなかったくらいだ。それを警察だからと言って、この力を証明できる訳がない。だから、僕は捕まらない。決して、捕まらない。
それでも、体に緊張が走る。うっすらと、額に汗が浮かんできた。
―――いずれにしても、あいつは危険だ。それに、彼女を“葉月”なんて、呼び捨てにする敵だ。殺すしかない。
その願いは、今までの誰を殺したものよりも強かった。力を込めすぎて、体が熱くなるのを感じたくらいだ。窓を開けっ放しでいたせいで、やわらかな風が彼を包み込んだ。火照った体には心地いい。
―――ふふふ。これで、あいつも終わりだ。
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