社長に求愛されました


綾子が言ったのは、もちろん和美の事だ。
綾子からしたら和美の事なんてどうでもいいし、むしろちえりと篤紀の仲を邪魔する目障りな女に過ぎないのだが、白石出版とのこれからの事もある。
そういった気持ちから一応確認すると、篤紀は苦笑いを浮かべた。

「いい。一件の仕事のために結婚させられるなんてたまったもんじゃねぇし。
それにもしもこんな事で契約切られるんなら、ずっと付き合ってくのは無理だしな」
「……それもそうですね。
でも一応、白石社長と専務には挨拶してからの方がいいですよ。
その間、高瀬は私が見てますから」
「まぁ、それもそうだな」
「多分、体調崩した人用にとってある部屋があるでしょうし、今、そこに案内してもらえるようにスタッフの人に言ってきますから、そこまで運んでもらっていいですか?
そうしたら挨拶に行ってください。私は高瀬見ながら車用意してもらえるように言っておきます」
「ああ、そうする」

てきぱきと動く綾子に感心しながら、篤紀は腕の中のちえりに視線を落とす。
安心しきった表情で眠っている姿に頬を緩めながらも、さきほどちえりが言いかけた言葉が気になっていた。

ひどく悲しそうに歪めた瞳で、やっと絞り出したような声でいったい何を言おうとしていたのか……。
それを気にしながらもちえりが起きないようそっと、用意してもらった休憩室まで運んだのだった。




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