社長に求愛されました



「ほらー、この間話したじゃない? 歩と結婚しちゃえばいいんじゃないかって。
あの時はほとんど冗談だったんだけど、よく考えたら本当にそれがいい気がしてきちゃって。
ちえりちゃんも男の人に興味が持てなかったり毛嫌いしてるところがあるなら、歩は適任だと思ったのよ。
ずっと一緒だったし、歩に対しては苦手だとかそういう感情ないわけでしょう?」
「うん……まぁ」

でも、男として好感もまったくもって持てないけれど。とは言えずに、ちえりが苦笑いを浮かべる。

歩から電話があった夜……もっと言えば、篤紀の部屋に泊まった翌日の夜。
ちえりは実家に帰ってきていた。
もちろん、歩との事をきっぱりと断るために。

帰ってきて顔を出すと、歩も、弟の慎一もそれぞれの友達と夕飯を済ませてから帰るらしく、洋子夫婦がいるだけだった。
ちえりを見るなり、店から引っ込んできた洋子が、ちえりの向かいに座り、べらべらと話し出したのが数分前。

どれだけちえりと歩がお互いにとって都合がいい相手かを熱弁する洋子に、ちえりはたじたじになりながら曖昧な言葉で答えていた。






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