社長に求愛されました


『俺を拒絶しないで欲しい』
午前中、抱き締めながら言われた言葉が、頭の中でリピートしてちえりを止めようとしているようだった。

「社長、私は……」

言うべき事は分かっていた。けれど、もっと一緒にいたいだとかそういうわがままな考えがそれを追うようにぐるぐると頭の中を回っている。
まるで追いかけっこだ。

洗濯機のように回る思考についていけなくなったのか、目の前の世界までもがグルグルと回り出す。
グラついて思わず一歩ちえりがよろけると、すぐに篤紀がちえりの身体を支えた。

「おい、大丈夫か?」
「社長……気持ちが、悪いです……」
「気持ち悪いって……おまえ飲めないしたいして飲んでねぇんだろ? 井上、こいつ何飲んでた?」

ふたりの様子を見ていた綾子が、慌ててちえりの飲んでいたグラスを確認する。
ちえりの持っていたアルコールは背の低いグラスに入った、果実酒のようだった。

「この子、ショートカクテル飲んでる……っ。なんで……あ、そういえばさっき私がお手洗い行ってる時にひとりで頼んでたみたいだけど、その時……?
高瀬、お酒強いんですか?」
「いや、ほとんど飲めない。ショートなんてアルコール度数高いのになんで……」


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