Kissから始めよう
昼休みが近付いてくる。


パソコンに向かう手が止まる。


冷や汗がでる。



半ばパニック状態だった和佳奈を現実に引き戻したのは、やはり雄輔だった。



「藤ヶ瀬さん、ちょっといい?」


まるで仕事を頼むかのように、外出先から戻った雄輔に声をかけられる。


半ば無意識で立ち上がると課長のデスクに歩み寄った。


「はい。」


和佳奈の表情を覗き込むと小さなため息をつく。

「和佳奈」


小さく、物凄く小さな声で囁かれた。


「左手を出して。」

「左手?何故ですか?」

なかなか意思が伝わらない、というよりパニック状態のため、機転が効かない。

「和佳奈、左手。いいから出して。」

不思議そうな顔をしたまま、おずおずと左手を差し出す。

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