テノヒラ
テノヒラ
『このたびは当社へのご応募ありがとうございました。
慎重かつ厳正に審査いたしました結果、大変残念ですが、
ご希望に添いかねる結果となりましたので、お知らせ申し上げます。
今回はご縁がありませんでしたが、当社にエントリーしていただきましたことに対し
厚く御礼を申し上げるとともに、佐藤彩さんの今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます』

また、ダメだった。
人ごみで立ち止まった私は、先ほど届いたメールを見て深くため息をつく。
もうメールを見るたびに落ち込むことをやめてしまった。
ため息を一つついて吐き出した分を、深呼吸で吸い込んで気持ちを切り替える。
予定のびっしり詰まった手帳を見ながら私は次の予定を確認する。

『14:00遥先輩とランチ』

「よっし、先輩に愚痴聞いてもらおう」

私は待ち合わせ場所に向かった。

「おー本当に就活生だな」

黒いスーツに身を包んだ私を見て先輩はそう言って笑った。

「就活生ですよー、全然うまく言ってないですけど」

声のトーンが思ったより低くなってしまった私を気遣うように

「その辺の話は聞いてあげるよ、お昼食べに行こうか」

先輩は大きな手を私の頭にポンとのせて、にっこりと笑ってくれた。


「おごってくださいね」

先輩のその行動に、ドキドキしてしまった私が照れ隠しでそういうと

「厚かましいなあ」

先輩はそう言いながら私の頭にのせていた手で髪の毛をぐちゃぐちゃにしようとする。

「ちょっと先輩、髪の毛乱れちゃいます! この後まだ面接あるのに」

「ごめんごめん、なんか髪の毛いい匂いしたから。よし、行こう」

先輩がそう言って乱れた髪をなおして、私の手を握ってくれるから、私はその手を握り返す。そうして私は安心する、今ここに私を選んでくれる人がいることに。
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