蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

信号待ちをしていた拓郎達の乗ったタクシーに、ノンブレーキで突っ込んだのは、居眠り運転の十トントラックだった。


タクシーは原型を留めないほど大破し、その事故を目撃した誰もが生存者は居ないと確信したのだと言う。


トラックに押しつぶされて、ひしゃげた車体には、どう考えても人が生存出来るだけの空間はなかったのだ。


その中で拓郎だけが、かろうじて命を取り留めた。


拓郎が助かったのは、文字通り両親がその身体を呈して庇ったからだった。


とっさに、拓郎を庇った母親。


その母親を庇った父親。


その二人の身体を突き抜けた鉄板は、拓郎の背中に一生消えない大きな傷跡を残した。


焼け付くような痛みの中、拓郎が見たのは、両親の流した真っ赤な血の海だった。


――だから。


だから、中途半端な生き方はしたくないと拓郎は思う。


少なくとも自分はあの時、『生かされた』のだから。


この命は、自分だけのものじゃない。


父と母がくれた命。


絶対、生きてやる。


生き抜いてやる。


その思いが、今まで拓郎を横道に逸れることを留まらせていた。


金の亡者のような親戚をたらい回しにされていた時も、アルバイト浸けで眠る間もなかった時も、その思いだけが支えだった。


でも、今は――。

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