蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
12 【手掛かり】

拓郎は考えあぐねて、藍が行きそうな『唯一の場所』、二人が出会った神奈川の『港が見えるヶ丘公園』に向かった。


あるいは、動物園に立ち寄るかもしれないとの考えが浮かんだが、早朝のこの時間帯では開いているはずもなく、残る選択肢はここだけだったのだ。


四月の海の公園は昨年の十一月に来た時の雰囲気はなく、懐かしいはずの場所なのに、拓郎は何故か見知らぬ場所のように感じた。


午前八時。


まだ早朝なこともあり、犬の散歩やジョギングをする人影はまばらで閑散としている。


澄み渡る青空のの下、一斉に芽吹き始めている新緑の中を吹き抜ける風の爽やかさとは対照的に、拓郎の心は晴れなかった。


思った通り、藍の姿はそこにはなかったのだ。


「何処へ行ったんだ、藍……」


ポソリと呟いた、まだ呼び捨てし慣れない恋人の名前は、風にさらわれて消えていく。


手がかりは全くなく、何処をどう探せば良いのか、見当も付かない。


拓郎は、公園の突端にあるテラスから眼下に広がる港の風景をボンヤリと見詰めた。


あの出会いの日。


一人佇む藍に、拓郎が声を掛けたにその場所だった。


眼下には、あの時見た時と同じく、活気に溢れた広大な港湾都市が広がっている。


所々で、工事をする大きなクレーンが、まるでミニカーのようなサイズで動いているのが見えた。

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