蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

「岡崎さん、今から部屋に伺う所でした。どうかされましたか?」

「手術の日程の件で、確認が……」

柏木と岡崎の会話を背中越しに聞きながら、ゆっくりと確実に、二人から遠ざかって行く。

あそこの角を曲がれば、岡崎の視界からは完全に外れる。そうすれば、比較的外に出るのは容易なはず。

上手く行く。そう思った時だった。

「あ、藍お嬢さん。少しお話があります。夜遅くに済みませんが、お時間を頂けますか?」

突然掛けられた岡崎の声に、藍と拓郎はギクリと固まった。

みんなの足が止まり、全ての音が消える。嫌な沈黙が暗い廊下に更に暗い影を落とす。

「藍、お嬢さん?」

岡崎の声は淡々としていて、計画がばれた訳ではなさそうだった。

だが拓郎は岡崎に顔を知られているし、そもそも、藍達が入れ替わっているのがバレないとも限らない。

いや、恐らく話をしたら、きっとバレてしまうだろう。二人は性格が違いすぎる。

「は、はい……」

答える藍の声が、微かに震えてしまう。

事態が悪い方へと流れを変えたのを、三人とも感じずにはいられなかった。



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