触れてほしくて
「髪、随分思いきりましたね」
彼に言われて、すっかり無防備になってしまった首元を手で隠した。
「今さら?」
「朝から言いたかったけど、商談のことで先輩ピリピリしてたから」
上目遣いに睨むと、彼がおどけたように少し肩をあげた。
「別に、失恋とかそんなんじゃないから」
「俺、何も聞いてませんよ?それ、自分で言っちゃうと逆に失恋したみたいに聞こえますけど」
彼にからかうように笑われて、頬がかっと熱くなる。
私は口を閉ざすと、彼から視線を外して降り続ける雨を睨んだ。
大学時代からずっと綺麗に手入れして伸ばしてきた髪をばっさりと切ってショートにしたのは、学生時代から仲のいい男友達のせいだった。