雨のち晴れ【短編】

「梨紗、来ないなぁ。」





待ち合わせ時間からすでに３０分が経ったけど彼女は来なかった。





「メールの返信もない……」






周りの人たちからは可哀想という同情の目線。





あのときと似てる。






私と時雨くんがすれ違いはじめた日。






あれは、夏なのに秋を感じさせる比較的涼しい日だった。





私と時雨くんは待ち合わせをして、町をブラブラする予定だった。





彼は現れなくて。




その日は私の誕生日だったのに。






結局、夕方まで待った。



　
ごめん、遅れた！って走ってきてくれるのを待ってた。






次の日から時雨くんは私と口を聞いてくれなくなった。






なんで？どうして？ってあの頃はいつも泣いてたっけ。






今はクラスも違うから随分楽になった。






もう…別れてるってことなのかな？







「ごめーーん！晴！！遅れた～」






「梨…紗…。」







「ごめん！電車が止まってて！携帯はなぜか圏外！もー本当ありえないよねー！ごめん！」







ペコペコ謝る梨紗。





私はホッとしながら少し怒ったふりをする。






「もぉー、来ないと思ったよ～！でも、梨紗が悪い訳じゃないもんね！ま、あそこの限定ケーキでも奢ってよね～！」





「ありがと！ってケーキ！？あそこの確か結構高くない！？待って、私悪くないんだよね！？しかもあんたダイエット中なんじゃ「悪くないけど、私は悲しかったんだよ～！高いけど、奢って！ダイエットはひとまず置いとこ？」





かなり嫌がる梨紗を引き連れ、有名な駅前のケーキ屋さんへ。






「じゃあ、このイチゴのと、今日の紅茶のセットで！」






「えぇっ、もうー！私も同じので………」






千円近くするそのセットメニューを頼んで、私は窓から外を見つめる。





「でも楽しみ！僕のシンデレラ見たかったんだよね～！浅山紳くんかっこいいし！荒木理彩ちゃん私と同じ名前だよ！？かわいーわー！」






「楽しみだね。紳君よりあのライバル役の夏木陽太くんのほうが爽やかでかっこいいよ～。理彩ちゃん本当かわいいよね。梨紗とはちょっと似てないかもだけど。」





「えぇー！？陽太君かー！まぁ、かっこいいけど紳くんのほうがかっこいい！って、晴！陽太君が好きなのは陽太君と時雨くんが似てるからでしょ！？もー、晴はー！」






「ぜっ、全然違うよ！！」






「ちょ、声でかいから！もー、あせりすぎ！」






確かに周りの人の視線は気になった。
すみませんというようにペコリと頭を下げ、梨紗を軽くにらむ。





「もう、時雨くんのことは忘れて！ほら、ケーキ来たよ。おいしそー♪」





イチゴをふんだんに使ったそのケーキはとても美味しくて。
紅茶との相性も抜群で、私は食べ終わる頃にはすっかり機嫌がよくなっていた。





「１８５０円…。」






「梨紗、もういいよ！私払うから！自分の分は自分で！ポップコーン奢ってもらう！」






さっと千円札を出してにこっと笑ってそう言うと梨紗は心底ホッとしたように笑った。






「ポップコーンね。りょーかい！」