俺様常務とシンデレラ

「あれがなくても、絵未は絵未だよ。俺が見つけたんだ」


慈しむようにキスを降らせる常務に、私の涙は引っ込むどころか、とうとう溢れてきてしまった。

常務が苦笑して頬を包む指先で、その涙を拭う。


「泣くなよ」

「ご、ごめんなさい、でも……」


なぜかはわからないけど、溢れた涙が止まらない。


どうして私は、こんなに悲しい気持ちになるんだろう。

どうして常務は、そんなに寂しそうな顔をしているんだろう。


「嬉しかった。お前が俺とのことを、そんな風に思ってくれてるの」

「だ、だって、じょ……大和さんが、"王子様"なんてバカバカしいって言うから……」


私は子どものように泣きベソをかいて、ぐすんと鼻をすすった。



「だけど、お前といて、ときどき思うよ。もし本当に"運命の相手"がいるとしたら、俺にとって、それは……」



常務が眉を下げて、優しく微笑み、私を見つめる。

そして途切れた言葉の続きを教えるように、泣き顔の私にそっとキスをした。



小さなドキドキを伴う、ほかほかと温まるような甘いキス。


私の胸はきゅんと締め付けられるのに、涙の味が、ふたりの間にほんの少しの切なさを残していた。
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