俺様常務とシンデレラ

常務が"白馬の王子様"なんてバカバカしいと言う理由も、"運命"を信じたくないと思う理由も、なんとなくわかる気がする。


だけど、常務はこの前、私に言ってくれたもん。

『お前といて、ときどき思うよ。もし本当に"運命の相手"がいるとしたら、俺にとって、それは……』

そして常務がくれた甘いキスは、すごくあたたかくて、すごく優しかった。


常務だって、本当はお母さんが信じた"運命"を、同じように信じてみたいって、思っているんじゃないの?



「会長とお母さんのことだって、常務のお母さんが"運命"だって仰ったなら、きっと、おふたりにしかわからない何かが……」

「うるせえな!」


怒りと怯えが入り混じったような常務の叫び声が廊下にこだまし、掴まれていた腕は勢いよく放された。


「俺は"運命"だとかおめでたいこと言ってるやつは嫌いなんだよ! 心底腹が立つ! そうやって現実を見ないから、傷つけられてボロボロになるんだろ!」


常務はそう言って振り向き、私の顔を見てひどく傷つけられたような顔をした。

まるで、今の私の表情をそのまま鏡に映したみたいに。


荒げられ、私に向けられた常務の激しい声。

突き付けられた言葉が鋭く喉に突き刺さり、私から声を奪ってしまう。


常務は自分が言ったことにショックを受けたように、苦しそうに顔を歪め、私から目を逸らした。
< 153 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop