俺様常務とシンデレラ

「まあ、ムリもありませんね。あなたは少しお酒に酔っていたようだし、常務しか目に入らない様子でしたから」


はっ! じょ、常務!?


「まさか、あのときの王子様と一緒にいた……!? あっ!」


驚きのあまりどこぞのお偉い役員さんをつい"王子様"なんて言っちゃって、私は慌てて口を塞いだ。

だけど今更そんなことをしても遅くて、目の前の男の人は深い目元の奥の瞳を三日月型にして、イタズラを企むようにニヤリと笑った。



「そうですよ。多くの女性は、彼の様々な面を称して『王子様のようだ』と言います。でもまあ、それは本人にはあまり……」


言いかけた言葉を不自然に切ると、思い直したようにスーツの胸元に手を忍ばせ、そこから取り出した名刺を私に手渡した。

私は、そこに書かれている肩書きを読み上げる。


「あ、あしはら、ホールディングス……? 会長秘書? 秘書室長……?」



私がその名刺からそろそろと顔を上げると、人の好い、だけどどこか、狼狽える私を楽しむような表情を浮かべた男性と目が合う。

これは、イタズラの成功を喜ぶ男の子の顔ではなかろうか。






「夏目栄(なつめ さかえ)と申します。あなたを、ぜひとも、葦原ホールディングス株式会社の取締役常務専属秘書として、スカウトしたい」






シーンと静まり返った店内にマルがノソノソと入って来て、いちばん端っこのカウンターの丸椅子の上で丸くなった。
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