風を切る君


転校から一ヶ月後
朝練

「8周目ー!!」

「「はーい!!」」

部活にもだいぶなれてきて
学校も楽しくなってきた。
毎日走って、汗をかいて。
おつかれっていいながら帰る。
そんなことですら
幸せに感じてしまう。

「間宮ーーーー!!!!」

「なーーーにーー?」

遠くからすごい速さで
走ってきた隼くん。

「俺のフォームみといてくんね?」

「…マネージャーーーー「お前にみてもらいてーんだよ!」

マネージャーを呼ぼうとしたら
とめられた

「えーめんどいよ!」

「100だから!12秒で終わるから!」

そういいながら、手を会わせながら
私におねだりをしてきた。

「んーじゃあアイスおごってね!」

「よっしゃあ!」

そういいながら、右肩をぶんぶん
回し始め、隼くんは青と黒の
かっこいいスパイクの紐を結び直した。
そして、スタブロに足をかける。
その瞬間、彼の顔は変わる。

「…」

いつもは、爽やかで
目も優しくぱっちりしてるのに
走るときだけ顔つきが
凛々しくなる。
目は一点をみつめるだけ。
このときだけ、私は
彼から目がはなせなくなる。

「オンユアマーク」

「セット」

マネージャーの合図で腰をあげる。
そして…
バアン!!その音と同時に
隼くんは走り出した。
ああ、なんで彼はこんなに
風を切れるんだろう。
私の目の前を通過した彼。
少しの時差で彼に切られた風が吹く。

「どうだった!?」

誉めてほしいという気持ちが
思いっきり顔に出てる隼くん。
さっきまであんなに凛々しかったのに笑

「もう少し、前傾になるといいかも」

誉められると自分の中で
確信していたのか、
彼は私の言葉を聞くと

「サンキュ…」

と言って下唇を噛みながら
下を向いてしまった。

「でも、さっきのは今までで一番よ
かったよ」

私は思っていたことを
隼くんに伝えた。
すると彼はバッ!と前をむき
パアッと花が咲くような
笑顔を見せた。

「ガチ!?嘘じゃない!?」

「本当だよ」

それを聞いた瞬間両手で
ガッツポーズをした。
どうやら隼くんの癖らしい。
私なんかの言葉でここまで
喜ぶ彼をみて、胸がきゅーってした。
なんだろ。これ。
なんか…かわいいっていうのかな?
とても愛しく想えてくる。
変なの笑。

陸上一筋、鈍感な私に
その気持ちの理由なんて
気づけるわけもなくて…。
この気持ちに悩まされ続けた。
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